以前開催されたイベントにてまつもとゆきひろさんの講演を聞いてきて、せっかくなので自分がどのようなキャリアを歩みたいかも含めてまとめてみたいと思います。
一応、まつもとゆきひろさんのことを知らない人のために説明しておくと、世界レベルで使用されるRubyというプログラミング言語を作った、とんでもなくすごい人です。
イメージとしては、スマートフォンという枠組みの中にiPhoneやXperia、Galaxyなどがありますが、その中でも世界的に使用されているスマートフォンを作った人と思っていただけるとわかりやすいと思います。
今回、2時間にわたり学生と20代のエンジニアに向けてお話していただいたので、登壇をまとめてみます。
エンジニアとして必要なことは「死なない」こと
まず、講演が始まって冒頭5分でお話されていたことが死なないことでした笑
会場からは笑いが起きたものの、まつもとさんはいたって真面目にお話されていました。
エンジニアという職業柄、どうしても長時間労働をさせられやすい環境にいることは、どこでも起こりうることです。
まつもとさんの元々の職場も長時間労働が起こっていたらしく、一方の上司が「残業を160時間した」と言えば、もう一方の先輩が「俺は200時間した」という会話がされていたらしいです。
確実に感覚が麻痺していますが、エンジニアはそのような環境に陥りやすいとのこと。
ありがたいことにエンジニアは一般的なサラリーマンの中では給料が高いといわれていますが、時間ではなく価値を提供して対価をもらうことを常に意識しなければならないというお話が印象的でした。
エンジニアの生存戦略は“抽象化・パターン化”
まつもとさんは、世の中にある具体的なものほど寿命が短いというお話をされていました。
その例として、アプリ→言語→OSという例を用いてお話されており、アプリは最近10年ほどで出てきた技術であるものの、OSはUNIXから考えると既に50年近くもの歴史があります。
もちろん、全員がOSを開発するとなればアプリを開発する人がいなくなるので、それはそれでまずいです。
ただ、一つの生存戦略として見た時に、汎用性を持てれば技術の移り変わりがあったとしても不変のものを手に入れていることになります。
そういう意味でも、プログラミングの本質を早くから学ぶことを意識すべきというお話をされていました。
大事にする価値観
まつもとさんが今までの経験を通して意識的か無意識的かはわかりませんが、結果的に感じた価値観が2つあるといいます。
- 鶏口牛後
- 我慢の価値
という2つです。
鶏口牛後
「鶏口となるも牛後となることなかれ」ということわざがあります。
小さな組織の中でトップになる方が、大きな企業で下っ端になるよりも良いという考え方です。
まつもとさんは逆アルファシンドロームという言葉で表していましたが、コントロール下にいて自分が主体的でない人は、自分が下であるという認識を無意識に抱いてしまうそうです。
そして恐ろしいのは、やらされていると感じているときの生産性は主体的に行動しているときより圧倒的に下がるということ。
確かに自分の行動が主体的でないと感じるときには、いろんな悩みを抱えながら仕事もしてしまう気がします。
自分で主体的にやるからこそ、スキルも上がる。スキルも上がるからより大きな価値を生む。価値を生むから報酬も上がる。
この循環を繰り返すことができるのは、果たして鶏口か牛後かどちらがいいか一度考えてみる必要がありそうです。
我慢の価値
日本人が応援する時によく言う「頑張って!」という言葉は、英語に上手く訳せないそうです。
なんとか訳して出てきた言葉を日本語訳すると「壁にぶら下がる」という意味になり、辛いことを我慢してという意味を持つ言葉になってしまうそうです。
つまり、やりたいことではなく我慢してやっていることが美徳ということを、無意識のうちから考えているのだとか。
将来こうしたい!という目的を持つ我慢は時と場合によってはいいかもしれませんが、社会的圧力による我慢、いわゆる「みんなで耐えよう」「逃げることは悪」というような我慢からはさっさと逃げてしまったほうがいいみたいです。
まつもとさんは、お話の中で“逃げる”という言葉を非常に強調してお話されていました。
それだけ、多くの人が我慢することによって対価を得ていると感じているみたいです。
そうではなく、価値を生み出すことによって対価を得るべきと考えており、この辺りは非常に考えさせられる言葉でした。
プログラマの3大美徳
プログラマにおいて3大美徳と聞くと、なんとなく学習し続けて情報をキャッチアップして課題を解決することかなと思いましたが、全然違いました。笑
プログラマの3大美徳は、
- 怠惰
- 短気
- 傲慢
の3つだそうです。
正直あまり関わりたくない人間ですが、これにはそれぞれちゃんと意味がありました。
怠惰であれば、全体の労力を減らすための作業を惜しまない。
短気であれば、コンピュータが怠慢なときに感じる怒り、つまりきちんと動くコードを設計する。
傲慢であれば、神罰が下るほどの過剰な自尊心、つまり自分に対しての自信を持つこと。
3大美徳は、見方によってはただの最悪なやつですが、見方によっては全体のコストを考えた上で、その課題を解決することができる人なのかなと。
できるだけ面倒なことは先人の知恵や機械に任せる方法を探していきたいところです。
無意識の価値構造
日本人だけでなく、世界的にも我慢して価値を生むことが美徳であるという考え方は無意識的にあるみたいです。
しかし、その中でも松本さんは我慢をして価値を生むことに対しての違和感を強くお話されていました。
労働することは決して我慢ではないし、報酬は苦痛の対価ではなく価値の対価であると。
だから価値を生み出すためにも理不尽は拒否しなければなりません。
でないと、我慢を続けることによって苦痛に耐性ができてしまいます。上記で書いたように、苦痛で続けると生産性が大きく下がるので、より価値を生み出せない人間になってしまいます。
だから、社会的圧力を自覚しつつも理不尽に声をあげて場合によっては逃げることも全然オッケーで、取引しないことも頭にいれておかなければなりません。
敵を知り己を知れば百戦あやうからずという言葉通り、自分の価値を生み出す方法を探しそれを継続することが、自分が価値を生み出すために必要なことだと感じました。
プログラマは人生の勝ち組になれる?
プログラマの仕事は1にも2にも課題解決という話です。
課題を明確化し、解決策を考え、テストを行い、効果を確認する。
それを日々の業務で当たり前のようにやっているプログラマの仕事を人生そのまま適用すれば、もっと自由な人生を生きることができるかもしれません。
人間は過去の経験があり、パソコンと違ってキャッシュクリアはできませんが、自分のことを考えるときくらいはキャッシュクリアすることも頭に入れておかなければならないかもしれません。
まとめ
今回は若手エンジニアの生存戦略というテーマでお話されていましたが、特別エンジニアに限らないという印象を受けました。
もっと技術的な話になると思いましたが、どちらかというと自由に好きなことをして生きる“生き方”について強くお話されているように感じます。
一エンジニアとして自分がやりたいことは何かを考えるいい機会になりました。非常に濃い時間をありがとうございました!
最後にまつもとさんがおすすめしていた本を紹介します。